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    練吉は時々、「うむ、うむ」と呟き、房一の方をふりかへつては「ね?」と、同意を求めるやうに云つていた。

    傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。

    小谷は髯のことなんかはよく覚えていなかつたので、曖昧に、気のない返事をした。道平は、さつきは盛子に紅くなるほど笑はれて多少気を悪くしたことではあるが、こんな風に自分が元通りに恢復し、房一の家の縁側に腰を下し、やつて来た人から何やかと話しかけられることに一種のまごつきと期待を現しかけた。だが、小谷には何の反応もなく、その目は又紙衣裳の方へ帰つた。

    「さうです、小倉組の方ですな」

    「いや、あの晩の、ほんの三二日前です」

    私は朝と夕方と真夜中に入浴する。朝、ぬるいうちに私がはいり、そのあと熱くして家族がはいる。それをほッとくと、夕方、私には手頃のぬるさとなっている。

    その中を、子供達はまだ朝飯がすまないうちから通りへ出て、軒から軒へ筋交すじかひに張りわたされた小旗の下を駆けまはり、叫び声を上げ、蝋燭に火の入らない日の丸提灯が伸び切らないで尻を持ち上げたまゝぶら下つているのを眺め、家ごとに定紋入りの大提灯が板屋根のついた台と共に立てられ、鳳鳳のついた万歳旛ばんざいばたとがずらりと列をなして並んだ様を片目をつぶつてどこまでつゞいているかすかし見たり、一々数をかぞへていたりしていた。そして、犬までが子供達のさわぎに釣られて走り、きよときよとし、又走り出していた。

    「いや、それが――」

    房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、

    房一が云ひかけると

    突然だつたので、房一は思はずその醜い顔に紅味をうかべながら、軽く頭を下げた。その拍子にごく自然に眼玉と真向ひになる位置を外した房一は、さつきから気を引かれていた馬の方をちよいちよい眺めやつた。

    「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」

    「さうです」

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